前回からの流れで、「赤い鳥」創刊号に載った芥川龍之介「蜘蛛の糸」にまつわる、面白い話。結構前にNHKスペシャルで見ました。細部に記憶違いがあったらお許しを。
「赤い鳥」を準備中だった鈴木三重吉のところへ、芥川龍之介から「蜘蛛の糸」が送られてきた。三重吉は一読し、「さすが当代一の若手文学者だ、文章が流麗で切れるようだ」なんて言いながら、おもむろに原稿に赤ペンで修正を入れ始めた、というのですが。
(三重吉は編集者でもあった)
なんとこの赤入れされた原稿が現存していて、実際のものが映っていました。これがもう、修正だらけのズタズタで(笑)。ぎっちり赤が入って、大きく元の文章が改変されているのです。見ているこっちは真っ青です(w)。
自分みたいな元・ライターでも、まとまった文章を書くときは構成や段落・表現を練って完成品を編集者に送りますからね。こんなに直されたら大抵の人はブチ切れます(w)。ましてや希代の文学者・芥川龍之介、これは怒ったんじゃないか、と思ったのですが。
ところがところが、芥川はそれを全て受け入れた、というのですね。理由はなぜか。
もうこのレベルの方々だと、赤が入った原稿ですら貴重な文学的資料。いったい三重吉の直しとは? 見ていくと、全て「長い文章は分割する」「難しい表現は開いて簡単にする」、こういう修正ばかりなのです。つまり、子供が読むのだから、子供がわかる文章や表現にしましょう、ということ。三重吉はいつも子供たちのことを第一に考えている人でした。
それが芥川龍之介にもわかった。それで受け入れたのですね、たぶん最初見たときはカチンと来たかもしれないが。まあ編集者vs文学者の火花散る戦いですわ。決して、お金が欲しかったわけではないと思います(←怒られるわw)。
だから、三重吉という人は、芥川ですら認める優れた編集者でもあったということになります。もちろんその腕が雑誌の隆盛に大いに活かされたでしょう。編集長としても、雑誌全体の企画や事業としての雑誌発行を成功させ、辣腕だったようです。
安定した発表媒体があれば、作家は安心して寄稿できます。ぶっちゃけこれもビジネスなので、数誌も児童文学誌があれば、それは当然優れた才能がどんどん集まってくるわけなので。
宮澤賢治も、この「赤い鳥」は創刊号といわず、毎号読んで、大いに刺激を受けていたことでしょう。まさしく日本の文学を大きく飛躍させた、革命的な雑誌だったといえるのではないでしょうか。事実上、これがたった一人の人間の問題意識から始まったのだから、驚きです。
三重吉の「有言実行」は、およそ物を作っている人間なら、大いに見習いたいところです。……自分としては、せめてその心意気くらいは(w)。