懐かしの大ヒット曲、伊東ゆかりさんの「小指の想い出」(1967年)を聞いていました。
古い曲なので、今と比べたら時代を感じるところはありますが、それでも逆に音楽にとってハイファイ(高音質)ばかりがベストなわけではない、と思えてきます。
もちろんこの録音も当時は最高品質のものだったわけですが(ミックスも良い)、今聞くと現代の録音物とは随分違います。
まず圧倒的に音が太い。録音機材はアナログのものばかりで、歪み感も感じられるわけですが、むしろ温かみのある存在感があって、透明感はなくとも心地よい訳です。ご想像通り、今この音を再現しようとしても、どんなレコーディングスタジオでも無理でしょう。
マイクが写し取った当時の空気感・時代の色合いみたいなものは、特別のものですね。
イントロのトランペット、mp3で聞くと歪んでいるように聞こえるんだけど、確かCDだとギリでクリップしてない感じだと思った。これなんかむしろ、曲と合っていて却って良いくらい。
そのイントロから、ラテン調の素晴らしいアレンジのバンド演奏が聞けます(これはルンバかな?)。
もちろん当時はオープンリールのテープレコーダーが回っていたわけだけど、1967年というと、メジャーのスタジオでもせいぜい12トラック、もしかすると8トラックしかなかったかも。(発売はキングレコード)
……ということは、こんな大編成のバンド演奏を多重録音で録れるわけがないから、少なくともストリングス以外は一発録りじゃないかと思いますが、ぜひ業界の諸先輩方にご意見を伺いたい(w)。この演奏、アンサンブルも非常に良くいかにも手馴れた楽団が一発で録った感じなんですね。
エレキギターとハモンドをユニゾンで演奏させて(今でいうレイヤー)、シンセみたいな効果を出したりと、アレンジも抜群。
事実上のスタジオライブだったとしたら、生々しい躍動感は、そのせいだと思われます。
(もしやストリングスも一発録りかも…。レイヤーのところに入ってくるし)
器楽演奏のことばかり書いたが、むろん伊東ゆかりさんの可憐で切ないボーカルがあってこその名曲です。当時20歳。
面白い話があって、後年ご本人のインタビューで、当時は歌詞の意味なんて全然判っていなかったそうです(w)。ただ出されたものを歌っただけ、とのこと。それでこのクオリティは、やっぱり一時代も二時代も作った歌姫です。
こういう扇情的で濃い感じの歌、正に歌謡曲の王道といえるものでしょうが、今はなかなかないですね。まあこの曲なんかも、時代が生んだ奇跡の録音芸術だと思うわけです。
一説ではなんと150万枚売れたという大ヒット曲。当時まだオリコンは無く正確な数はわからないとか。全てが伝説です。