歌物楽曲を制作していると、ミックスの段階でボーカルトラックの処理が発生します。歌物というからには最も重要なのがボーカルなわけで、その処理にはいつも最大の手間を掛けています。
人間が一番聞きなれている音楽の要素が「歌」なわけで、ここを疎かにすると、即座に曲の難点としてリスナーに認識されてしまう、という事情もある。
(もっとも、これは制作屋の言い方で、歌手・アーティストさんは、まず心に届く歌を吹き込む、というその前の段階がある。実際のレコーディングでも、マイクを「吹かない」歌い方とか、レベルを適正に保つ発声法とか、色々あるはずですね。自分のところへはレコーディング済みのものが届くので)
で、ここに普通は10前後のプラグインを挿して調整を繰り返し、ようやくCDや配信などで聴くのと同じ品質・音質のトラックになります。EQやコンプレッサーが複数、チャンネルストリップやらディエッサーやら、まあ色々です。その中には外した音程を修正するプラグインもある。
(おっと、その前にトラックのノイズ除去やら、ブレス(息継ぎ)の消去処理、この辺は自分はWAVを直接編集してますが。リズム修正もここ。そして複数テイクから良いところばかりをつなぎ合わせる、ってのも時々ある)
こんな感じでボーカル処理のプロセスは成り立っているのですが、現代のミキシングエンジニアには必須のスキルといえるでしょう。
ただ、作業工程がほぼノウハウ化して決まってしまっている分、あまりにガッツリやりすぎると、人間の歌なのにまるでボカロのように聞こえることもままある。もちろん最初からそれを目指している曲ならいいのですが(ケロるやつとかね)、普通の楽曲ではあくまで人間の歌として聞こえて欲しいわけで、今はあきらかに「やりすぎ」の方へ振れているんではないか、と感じることもある。
極端な話、多少声がかすれたり音程が外れていても、それが音楽的に正解だったら、それでいいじゃないですか? あまりにパラノイア的に直していくと、だんだん人間味が薄れ、「良い音楽」って方向からは外れていくんじゃないか? 個人的にはそんな風に思ってます。
(ジャズやフュージョンなど器楽曲で、音が外れたりリズムを外しても、それがいい演奏・アドリブなら採用されるわけで、それと同じです)
もっとも、クライアントさんが完全に直してくれ、というリクエストを投げてきたら、この限りではありませんが。
まあつまり、あまりに完璧にプロセスするとまるでアンドロイドみたいになりますよ、ってことです。どこかに人間味を残しておいた方が、きっとリスナーの心にも届くでしょう。過ぎたるはなんとやらですわ。
で、結局このあたりの加減は、ミキサーも音楽がわかっていないと正しい判断はできないわけで、やっぱりただの「エンジニア」では務まらないんですね、この職種も。
自分なりのボーカルトラック処理論を書いてみました。
(昔は、音程の修正とか一切できなかったから、レコーディングは苦労したろうなあと思う)