音楽ライティングの分野で大家ともいえる方の本を拝読。たくさんのアーティスト取材の中から、その人間像に焦点を当てて、<音楽を作る人たち>の思考や行動原理を描き出そうとする力作でした。
あるベテランの男性シンガーソングライター。実際に会うとガタイもいいしハードボイルドな雰囲気なんだそうですね。ところがその歌と声は非常に甘く、いわゆる女性ウケがいい曲ばかりを作っている。とてもアンバランスな感じなんだそうです。この矛盾を本人はどう考えているのか、長年の取材の中でタイミングを計って、すこぶる機嫌のいい時に聞いてみたんだそうですね。流石に「ずいぶんなことを聞くなあ」と返されたそうですが、見事に回答をくれたと。ご本人も普段から「覚悟」があって考えて活動していたのです。やっぱり一流の人は自分の強みや弱みを客観的に掴んでいるんだ、と思った。
(逆に、ここまで聞けるインタビュアーは凄いといえます)
この本、オフレコや時効だから……といった話も結構ありますが、それがミュージシャン/アーティストの人間性を活写する仕掛けにもなっています。いわゆる「ニューミュージック」や「フォーク」世代の日本のアーティストの名前が帯には並んでいますね。
ニュージャーナリズムのスタイルで書かれたアーティスト群像、これは2冊目があれば是非読んでみたいと思いました。意外に、これが初の単独での上梓だそうなので。次は音楽制作側の話も聞けたら、音楽マニアも業界人も喜ぶのではないでしょうか、司会(DJ)やプロデューサーとしても活躍されている方ですから。