1962年アメリカ・ニューヨーク。有名クラブの用心棒トニーは、店の改装で一時解雇。そんな中、クラシックの黒人天才ピアニスト・シャーリーから依頼され、南部の最深部まで回るツアーに車で同行することに。予想通り酷い人種差別に遭いながら、雇用者・被雇用者の関係を超えて、徐々に友情を深める二人。なぜわざわざ南部で演奏するのか、その目的とは。
典型的なロードムービーで、なかなか考えさせられる映画でした。これは実話を元にした話だそうですが、シャーリーは高学歴の上流階級、世界的ピアニストでホワイトハウスで何度も演奏したり、実際ケネディの友人でもある。住居はなんとカーネギーホールの上層階で、まさに宮殿(だが離婚して子供もなく孤独)。
一方トニーはイタリア系で、住居はブロンクス、子供二人と夫婦仲は良く、血縁重視のお国柄らしく、いつも近所の親戚のおじさんおばさん子供が出入りしていて騒々しい。決して裕福ではないし、粗野で学もないが、人情味は溢れている。
正反対の二人ですが、旅をしていくうちに、実はイタリア系もアメリカ南部では差別の対象であることがわかってきます。字幕だと「このイタ公め」なんて罵られるシーンが2回ある。その度にトニーは相手を殴ってしまうのですが(笑)、これだけ理不尽なら仕方ないな、と納得の展開です。
結局シャーリーがわざわざ南部を回ったのは、苦難を超えて演奏することで人間力や音楽家の魂に磨きを掛ける目的だったのですが、ツアー最後の最高級レストランのステージで、その後演奏するというのに、黒人であることを理由に飲食を断られ(なんとトイレも使えず)、ブチ切れて契約無視で帰ってしまう。トニーは大慌てで止めるのですが彼の意思は固く……。
(6年前黒人で最初にやってきたナット・キング・コールも、難癖をつけられ客に暴行されたという、曰くつきの場所だった)
その後二人が入った黒人OKの庶民的なレストランで、R&Bのバンドとシャーリーがジャムセッションするところは最高。ここは映画のハイライトでしょう。
日本も全然他の国のことは言えませんが、世界的ピアニストを最高級の会場に招待しながら、黒人だからと差別はきっちりするという、本当に理解不能なことがまかり通っていたんだなあ、というのが自分の感想。
これは1962年の話ですが、今だって残念ながらトランプみたいな奴はいるんだし、まあくわばらくわばらといったところ。(アジア系差別の話もちょっと映画で出てきて、シャーリー邸の使用人がアジア系)
一体、今のアメリカで黒人音楽を全て止めてしまったら、どれくらい業界的なビジネスが縮小するか。5割では済まないでしょう、7-8割くらいか。ラップなんて独擅場だしね。ジャズ、R&B、ブラコンに限らず、少なくともポピュラー音楽は全て黒人音楽の影響下にあるといっても過言でない。ちょっと音楽理論を勉強するとすぐジャズの語法が出てきますしね。
きっと差別や社会問題は、つかず離れず、考え続けることが大切、なんでしょうね。