前回、カーペンターズのことを書いた時に、カレン・カーペンターのソロアルバムが存在していると知り、しかも録音当初はお蔵入りになったといういわく付き作品だったというので、これは聞いてみなくてはと注文した。
録音が1980年で、一部の曲はカーペンターズのアルバムでリミックス等で収録されたが、アルバム自体はなんと1983年のカレン没後も発売されず、1996年になってようやくレーベルが動いたという。しかもきっかけは、日本でのカーペンターズ人気の再燃だったというのですね。
どうですか、これは問題作っぽいでしょ? アルバムタイトルは『遠い初恋』(原題: Karen Carpenter)
例によってWikipedia等いろいろ調べて経緯をまとめると:
・1980年、兄のリチャードが睡眠薬依存症で治療に専念しなくてはならなくなり、カーペンターズは休業状態になった(そんなことがあったんですね)。
・この間、仕事を休むのを嫌ったカレンはソロアルバム制作を決意、リチャードはあまり賛成という感じではなかったらしいが、A&Mレコードのハーブ・アルパートに相談すると、名プロデューサーのフィル・ラモーンを推薦された。
・カレンは単身ニューヨークに赴き、フィルとともにアルバムを制作。バックにはボム・ジェームス、スティーブ・ガッド、マイケル・ブレッカー、リチャード・ティー等フュージョン界のトッププレイヤー、そしてビリー・ジョエルのレギュラーバンド、マイケル・ジャクソンに関わったスタジオミュージシャンを揃えた。
(ものすごい陣容です、しかしまとまるのか……実はこれ杞憂じゃなかった)
・アルバムは一応完成するが、カレンは気に入らなかったようで、何度もやり直した。前述のように豪華ミュージシャンを揃えたので、やり直しにもスケジュール確保が大変で、制作が長引く要因になった。
予算は完全にオーバーし、カレンは自分もかなりの資金をつぎ込んだとのこと。
(これだけの陣容を長時間拘束すれば当然ですね)
・年末にアルバムは完成するが、それを聞いたリチャードやA&Mレーベルの反応は芳しくなかった。その要因のひとつに「歌詞が性的すぎる」(!)というのがあったらしい。
・最終的に、カレン自身の決断でアルバムはお蔵入りになった。
……ね、ここまで読むと兄リチャード、そしてハーブアルバート、お前ら鬼畜生か!って思うでしょ? カレンがせっかく私財までつぎ込んで完成させた、豪華ミュージシャンを揃えたアルバム、つまらない訳がなかろう、と。
さては勝手にソロアルバムを作ったのが気に入らなかったのか? カレンは籠の鳥じゃないんだぞ、とかね。
自分もそう思ってました、実際『遠い初恋』を聴いてみるまでは。
聴いたあとは……
「ああ、これはリチャードとA&Mが正しかったわ」
とまあ、お約束の展開に(汗)。
うーん、もちろん普通の水準は完全に超えているんだけど、それにカレンのボーカルはやっぱり素晴らしいけど、特に1曲目なんか、カレン自身の「迷い」が出てるようで、AORというわけでもなく、なんだか中途半端な雰囲気が。
この「迷い」、なんでしょうね? カーペンターズ路線でいくか、それともカレン個人の新しさを出していくか、はっきり決めていない感じ、ですか。当時、カーペンターズはまだ存在していたし、難しいのはわかるんだけど。
この曲、ロッド・テンパートン作曲ですからね(これまた名プロデューサーの)。
しかも、ここは声を大にして言いたいけど、よりによってこの一番大事なアルバム1曲目だけ、ミックスがおかしいのです(断言)。伴奏が大きすぎて、ボーカル曲でなくインスト曲にボーカル入れたようなバランス。
これは悪いけど、フィル・ラモーンにゴラァ!したい。グラミー賞14回だけどw(いや14回て…トロフィーでサッカーチームできますがな)。
ちょっと理解できないなあ、これは…。もしかすると時々あるらしいが、ミックス長時間やりすぎて誰も問題点が見えなくなったってやつか?(耳が慣れてしまうため)
マスタリングの問題かとも思ったが、他の曲は大丈夫なので。
逆に、もっとモロにカーペンターズっぽい曲、あるいはR&Bっぽい曲は、すっきりしてて聞きやすい。曲調もよい。
そして、「性的」な曲もありましたよ。なんだそれ、って思ったが、聞いてみたら「アフタヌーンにあたしを抱いて」って歌詞の曲が。making loveなんで、モロです。カレンも当時30歳ですからね、全然不思議ではないはずだけど、カーペンターズのカレンとしては清純なイメージだから、これは衝撃ですね。(歌詞は作詞家が書いてます。他にも何曲か)
全体的にみて、豪華ミュージシャンを揃えているにも関わらず、(アンサンブルは自然で流石だけど)ほぼ空気、フュージョンプレイヤーの見せどころもほぼない(ボブ・ジェームスのアレンジは良かった)、どうも微妙にまとまりがない、正確には「芯」がないアルバムになってしまっている感。
これは、当時超売れっ子だったカレンのソロ1stとしては出せないでしょう。世間をがっかりさせてしまう。
そして、性的で大胆な歌詞の歌は、たぶん間違いなくマスコミからバッシングを受けたでしょう、当時なら。
こうやって考えると、リチャードやレーベルの反応は、正しかったといえます。やっぱりこの人たちの鑑識眼は抜群でした。
難しいもんですね。
しかしあれだな、出せないようなアルバムを大金かけて作ってしまったのは、やっぱりプロデューサーが悪いよ、これは。カレンは絶対無実なので(笑)。当時、業界的にも立場悪くなったろ、フィル・ラモーンは。
何やってんだよ、もっとガンガン来いよフィル!カモーンカモーン! てな。
あ、こういうのは要りませんか。
(ケチつけるだけだとアレなので、ぼくのかんがえたさいきょうのカレンソロは…。せっかくガッドやティーを連れてきたんだから、いっそ全部「Stuff」(独自のサウンドで、うるさいジャズファンも黙らせた伝説のフュージョングループ)で録音したら良かった。これだとサウンドもアンサンブルもバシッとまとまるでしょう。しかもカントリーからソウル、R&B、フュージョンまで対応できる、この人たちなら。カレンはドラマーなのでガッドとソロ合戦入れるとかさあ……。あとアレンジャーにヴァン・マッコイ連れてきたら最高!)
とりあえず、AORというよりは「カーペンターズから一歩発展させた系」サウンド、カレンのボーカルは相変わらず素晴らしいし、ご興味のある方は是非。なんのかんの言って、良質な王道アメリカンポップスなのは間違いないので。
自分のベストラックは8「My Body Keeps Changing My Mind」ですね。なんとファンクなディスコ曲、ベースはブラザース・ジョンソンのルイス・ジョンソンだぜ。ロッド・テンパートン&ジェリー・ヘイがアレンジ。ビート抑え目ですが、そこがまた上品でカレンに合ってる。