しばらく前話題になった「帰ってきたヒトラー」という映画を見たんだけど、コメディだと思っていると最後にドキッとする、なかなか良い映画でした。(以下ネタバレ)
死ぬ直前のヒトラーが現代ドイツにタイムスリップして、様々な珍騒動を巻き起こすという物語。ヒトラーが、色んなヒトラー映画の役者を「素人どもめ」とこき下ろしたり、「ブヨブヨした女が今の指導者か」(メルケルねw)と文句を言っているところは大笑い。右翼政党は手ぬるいから気に入らないが、「緑の党」はドイツの環境を良くしているから好きなんだと(w)。
ヒトラーはコメディアンと間違えられてTVに出るが、だんだんと持ち前の扇動力で人気者になっていく。現代ドイツの世情を憂える指摘は鋭く、なかなか誰も正面きって反論できない。特に移民については、建前では大歓迎だけども、やっぱりドイツ庶民の本音は別のところにあるんですね。それは、途中で挟まれるヒトラーとTVリボーターが実際にドイツ各地でロケした一般人とのリアル会話シーンにも現れている。(大抵の人は大笑いしてるんだけど、中には食って掛かってくる人もいる)。
この映画、最後にヒトラーが元いた時代に帰る……というありきたりなものではなく、映画に出演してどうやら政治の世界にも進出しそうなところで終っています。
ところで、この映画を見て気付いたんだけど、映画には明らかに「ヒトラーもの」っていうジャンルがあるんだな、と。Youtubeでミームになっている「ヒトラー ~最期の12日間~」もそうだし、古くはチャップリンの「独裁者」もそう。実はみんなヒトラーが大好きなんですね。ああいう極端でマンガチックな人物は映画の題材にうってつけということ。(チャップリンだけは、ナチスの時代に命がけで作ってるので事情が違いますが)
そしてこれ、誰かを思い出しませんか? そう、ドナルド・トランプですよ。この記事を書こうと思ってたら、実際CNNでそういう指摘が出たらしい。物事を極端に単純化し、国内に敵を作り国を分断化する、陰謀論を政治に持ち込む、保身のためならどんな嘘でもつく、メディアの扱いが神業的にうまく、大衆を扇動する力を持っている……。全てトランプに当てはまります。
実際、トランプの4年間は、独裁政治の4年間だったといってもいいと思います(議会があるから破滅的な暴走は食い止められたが)。トランプを支持している人の中には、気付かずにファシズムに傾倒している層もたくさんいたはず。アメリカだから皆まさか……と思っているわけです。
なかなか物事が決まらない民主主義への疲れが背景にあるのかもしれません。言うまでも非常に危険なことです。陰謀論は物事を単純化してくれますから、考える必要がなくなる。ナチスもユダヤ人を陰謀論で敵に仕立て上げて虐殺したのですからね。
怖いのはこういう傾向が世界中で見られるということ。日本だって安倍政権の時代は、ソフトな独裁にだんだん近づいていった期間でした。今の菅政権もそれを受け継いでいます。独裁政治が必ず失敗するというのは、それこそ歴史が証明しています。単純明快だからわかりやすいが、間違いなく腐敗し、正しい結果を生みません。
ちょっとトランプ現象の裏には、そんな背景が隠されているのではないか、と思い、この一文を書いてみました。例のQアノンなんか、もうそのまんまの陰謀論信仰ですからね。
(ナチスドイツは、ノストラダムスの予言書も、もちろん陰謀論に積極的に活用しました。あの4行詩にドイツの勝利が予言されている、と宣伝していたそう。んなわけあるかいw オウム真理教の麻原も、自分の名前が出てくるはずだ、と思いフランスの研究者のところまで聞きにいったらしい)